「また、ダメだった……。」春人は、静かにスマホを置いた。
さっき投稿したデザイン作品。それなりにいいものができたと思った。
でも、反応は
「くそ…ゼロかよ。」

春人はため息をついた。
SNSの画面に映るのは、まるで無関心を突きつけるかのような無機質な数字。「いいね」も「コメント」もない。
「やっぱり、俺は大したことないんだ…」
脳裏に、そんな声が響く。気づけば、目の前にまた…あの壁があった。
巨大で、冷たくて、逃げ場のない壁。
まるで自分を閉じ込める牢獄みたいに、そこにそびえ立っている。
春人は、拳を握る。
「どうすれば、乗り越えられるんだ……?」
そのとき…
「『乗り越える』なんて考えてる時点で、甘いんだよ。」

背後から声がした。振り向くと、そこにエスがいた。
※この物語にあった曲を用意しました。新感覚の体験をどうぞ。
セルフイメージとは?あなたの成功を左右する見えない力
「エス……?」
エスは壁に背を預けながら、ポケットに手を突っ込んでいる。
「お前、気づいてねぇのか?」
「…何を?」
エスが指を鳴らした。
すると――
壁が、ゆっくりと揺らいだ。いや、それだけじゃない。
よく見ると、その壁の表面には「俺は大したことない」 という文字が、無数に刻まれていた。
春人は息をのんだ。
「これは…?」
セルフイメージの正体とは? 無意識があなたを操るメカニズム
エスはニヤリと笑った。
「お前のセルフイメージだよ。その壁を作ってるのは、お前自身だ。お前のセルフイメージが、この壁を作ってる。」
エスの言葉が頭にこだまする。
「俺の…セルフイメージ?」
春人は壁に触れた。冷たい。固い。なのに、エスはまるで「お前が作った幻想だろ?」と言わんばかりの顔をしている。
「お前さセルフイメージ“って何かわかってんのか?」
エスが腕を組みながら、壁を軽く拳で叩いた。
「自分に対するイメージのこと?」
「まあ、間違いじゃねえな。」
セルフイメージとは人生全てを左右するもの
エスは面倒くさそうに壁にもたれながら続ける。
「セルフイメージってのは、自分が自分自身をどう思っているか――それだけだ。人はな、自分が思っている通りの人間になるんだよ。」
「成功するやつは、『俺は成功する』と思ってるし、失敗し続けるやつは『俺はダメなやつ』と思ってる、シンプルなことだ。なぁお前は自分をどう思ってる?」
春人は黙ったまま、自分の胸に手を当てる。
「俺は……」
春人は、壁に映る自分の影を見つめた。
「俺は……自信のないやつなのか?」
思い返せば、今まで何度も同じようなことを考えてきた。
- 「どうせ俺なんか……」
- 「俺には無理だ……」
- 「また失敗するんじゃ……」
それが、いつの間にか当たり前になっていた。
エスが鼻を鳴らした。
「だろ? だから、お前はそういう行動をしてしまうんだよ。」
「行動?」
「人間は、自分のセルフイメージ通りにしか動かねぇ。」
エスが指を鳴らした。
「例えば俺は人見知りだって思ってるやつがいるとする。そいつはどうする?」
「人前で話すのを避ける。」
「そうだな、じゃあ俺は努力家だって思ってるやつは?」
「…努力する。」
エスはニヤリと笑った。
「そういうことだ。」
「自分はこういう人間だっていう思い込みが、無意識にそういう行動を選ばせる。」
「だから、お前は俺は大したことないと思ってるから、大したことない行動を選ぶ。」
春人の心臓がドクンと跳ねた。
「例えば……?」
エスが指を折りながら言う。
- 「SNSに投稿する前に、やっぱやめようかなって思ったことは?」
「…ある。」
- 「クライアントに提案する前に、まだ実力が足りないんじゃないか って躊躇したことは?提案文を送ろうとしてやっぱりやめとこうって思った事は?」
「…ある。」
- 「そもそも、お前はすごい作品を作るぞ!って思って作っているのか?」
「…」
春人は言葉を失った。
「つまりお前は『俺は大したことない』って思っていて、そのセルフイメージが、お前の行動を制限してるってことだ。」
「…」
「だが行動の積み重ねでしか現実は作れねぇ。だろ?」
エスがゆっくりと言った。
「俺は大したことない→大したことない行動をする→結果が出ない→ やっぱり俺は大したことない」
「これが、セルフイメージの悪循環ループだ。次は、もういっそ夢なんて諦めちまおう…か?」
春人は口をグイっと結び、拳を握りしめる。
「…じゃあ、変えればいいんだな?」
エスはニヤリと笑った。
「いいねぇ、言うじゃねえか。」
「でもな―」
エスは指を鳴らす。
すると、壁が少しだけ揺れた。
「セルフイメージってのは、そんな簡単に変えれねぇ。なぜなら、お前の脳が、それを許さねぇからだ。まぁ、これは悠真の受け売りだがな。あいつから聞いた事を教えてやるよ。」
スタンフォード監獄実験が証明|人は役割通りに生きる

エスが壁を軽く拳で叩いた。
「お前役割の力って知ってるか?」
「役割?」
春人は眉をひそめる。
「人間ってのはな、自分が与えられた役割に沿って行動する生き物なんだよ。例えば、学生時代に優等生キャラっていただろ?そいつが夜中にバイクでも乗り回したらどう思う?」
「どうしたんだ?って驚くかな。」
「逆に俺みたいなキャラのやつが、急に机に向かって真面目に勉強しようとしたら?『どうした?』って思うよな。」
春人は小さく頷いた。
「確かにそうだ。でもそれが何なんだ?」
「有名な実験がある。スタンフォード監獄実験って知ってるか?」
「…聞いたことない。」
「簡単に言うと看守役と囚人役に分かれて生活させたら、短期間の内に看守役は傲慢になって囚人役を殴ったり、素手で便所掃除をさせたりした。囚人は萎縮して従うようになったって実験だ。適当に一般募集した人間たちがな。つまり、人は与えられた役割に自分を合わせちまう。お前もそうじゃないのか?」
エスが壁を指差す。
「ま、この実験自体が眉唾もんだったとか、やらせだったって話もあるが…少なくとも、役割が人の行動を変えちまうってのは本当だと思うぜ、俺は。」
※WIKIの詳細情報→【スタンフォード監獄実験とは?】(外部リンク)
春人は壁に浮かぶ「俺は大したことない」という言葉を睨んだ。
「…じゃあ、役割を変えればいいのか?」
「ああ。でも、そう簡単じゃねぇ。」
エスが指を鳴らした。
すると――
壁がさらに分厚くなった。
「なっ……!?」
「これはホメオスタシスってやつだ。」
ホメオスタシスがセルフイメージの書き換えを拒む

「ホメオスタシス?」
「簡単に言うと脳と身体は変化を嫌うってことだ。」
エスが壁を拳で軽く殴る。
「例えば、お前の体温が急に5℃上がったらどうなる?」
「……やばいことになる。」
「だろ? 人間の身体は恒常性(ホメオスタシス)って機能で、常に元の状態を保とうとする。そしてこれは…セルフイメージにも同じことが言える。
春人は息をのんだ。
「つまり、俺の脳は”俺は大したことない” って状態を保とうとしてる?」
「その通り。だからお前がどんなに『俺はすごいんだ!』って言っても、違和感を覚える。『いやいや、そんなわけねぇだろ』って、自分で自分を否定しちまうんだよ。」
春人は拳を握りしめた。
「じゃあ……どうすれば、変われる?」
エスがゆっくりと壁から離れた。
「『なりたい』なんて思ってるうちは変われねぇ。さっきも、『乗り越えるなんて考えてる時点で、甘い』とも言ったな。」
「……え?」
「なりたいってことは、今の自分はそうじゃないって前提があるだろ?」
「だから、ホメオスタシスが働いて、変わらないのが普通になる。」
春人はハッとした。
「じゃあ……?」
エスがニヤリと笑った。
「すでに、そうであるって思え。」
「すでに”俺はプロのデザイナーだ” って前提で動け。」
「そうすりゃ、”プロのデザイナーらしい行動” を自然と取るようになる。」
春人は、壁を見つめた。
その表面に刻まれていた「俺は大したことない」という言葉が――
少しずつ、消え始めていた。
※ホメオスタシスってのは、人の身体の中で勝手にバランスを取る仕組みだ。
簡単に言えば、寒いと震えて体温を上げる、暑いと汗をかく、そういう調整機能。
詳しくは公式情報でも見ればいい。→厚生労働省の資料(外部リンク)
他者の評価に左右されない重要性

春人は壁を見つめたまま、小さく息をついた。
「でも……」
エスが振り向く。
「なんだ?」
「いや……俺が『プロのデザイナーだ』って思い込んだとしても、周りがそう見てくれるかは別じゃないか?」
「……ほう。」
エスが口の端を少し持ち上げた。
「たとえば、俺が『自分はすごい』って思ってても、SNSで全然反応がなかったら?」
「結局、やっぱ俺はダメなんだってなると思うんだよ……。」
春人はそう呟きながら、スマホの画面を見た。
未だに「いいね」はゼロ。
「周りの評価がないと、不安になる。自分が正しいのか分からなくなる。だから……俺のセルフイメージが低いのは、”他人が認めてくれないから” なんじゃないか?」
エスはフッと笑った。
「ったく、しょうがねぇな…」
春人はムッとしてエスを睨んだ。
「な、なんだよ。」
「お前さ、”他人の評価がセルフイメージを決める” と思ってる時点で、そりゃ変われねぇわ。」
「……どういうことだよ?」
エスはスマホを指差す。
「お前は、”いいね” の数で自分の価値を測ってんだよな?」
「……まぁ、そうかも。」
「じゃあ逆に聞くが、もし トランプ大統領 がSNSに何か投稿したとして、『いいねゼロ』だったら、あいつは『やっぱり俺は価値がない』って思うと思うか?」
「……いや、それはないと思うけど。」
「だよな?」
エスはニヤリと笑った。
「つまりな、”他人がどう思うか” なんて、セルフイメージには関係ねぇんだよ。」
自分のセルフイメージを決めるのは自分自身だ
エスが壁を軽く拳で叩く。
「成功者ってのはな、”他人の意見に左右されない” んだよ。」
「例えば、イチローが子供の頃に周りから『お前には才能がない』って言われたら、『あ、そうですね』って諦めたと思うか?」
「いや……そんなことはないと思う。」
春人はエスの言葉を噛み締めながら、考える。
「でも……じゃあ、俺はどうすればいい?」
「簡単だ。」
エスがスマホを奪い取り、画面を春人の目の前に突きつける。
「まず…そもそもとして”価値の分からねぇやつの意見は、聞くな”。お前はプロのデザイナーなんだろ?そんな素人どもの言う事を聞くのか?」
春人は息をのんだ。
「お前が”プロのデザイナー” になるかどうかを決めるのは、お前自身だ。SNSの”いいね” がゼロだろうが、”それが何か?” って思え。お前を評価するのは、お前だ。自分が思ういい作品を作り続けろ。」
春人はゆっくりとスマホの画面を閉じた。
“いいね” の数に囚われるのは、もう終わりにしよう。
「……分かった。」
エスは口元を緩ませる。
「じゃあ、そろそろ次に進むか。」
春人は壁を見つめたまま、深く息をついた。
「よく分かったよ。セルフイメージが”俺を縛っている” ってことも、”他人の評価なんて気にしなくていい” ってことも。でも…」
エスが片眉を上げる。
「でも?」
春人は拳を握りしめた。
「分かっただけじゃ、何も変わらないだろ?」
「”俺はプロのデザイナーだ” って思おうとしても、心のどこかで『いやいや、そんなわけない』って否定しちまうんだよ。それがホメオスタシスのせいだってのは分かった。でも、どうやったら書き換えられるんだ?」
エスはニヤリと笑った。
「ようやくいい質問するようになってきたじゃねぇか。」
エス流・セルフイメージの書き換え3ステップ

「セルフイメージを書き換えるコツは、3ステップだ。」
エスは指を3本立てた。
- セルフイメージを明確にする
- 行動を先に変える
- セルフトークを書き換える
「この3つを実践すれば、ホメオスタシスの反対を乗り越え、確実にお前のセルフイメージは変わる。」
「ただし―」
エスはわざと間を空ける。
「そう簡単にはいかねぇぞ?」
春人はゴクリと唾を飲み込んだ。
「…教えてくれ。」
「よし。じゃあまずは、”セルフイメージを明確にすること” からいくぞ。」
① セルフイメージを明確にする

エスはゆっくりと腕を組んだ。
「いいか、まず大前提として――”何にでもなれる” なんて思うな。」
春人は眉をひそめる。
「……え?」
「ほとんどのやつは、”なんとなく凄くなりたい”みたいに言うが、それじゃダメだ。」
エスは壁に描かれた “俺は大したことない” という文字を指差す。
「お前がここから抜け出したいなら、まず”どんなセルフイメージを持つのか” を明確にしろ。」
「目標は”漠然とした成功者” じゃない。”具体的な自分” だ。」
春人は静かに頷く。
「……具体的な自分?」
「そうだ。例えば”プロのデザイナーになりたい” ってのも抽象的すぎる。プロってなんだ?どんな作品を作るデザイナーだ?誰に評価される?年収は?どんな働き方をしてる?具体的に”成功してる自分” を思い描けるか?」
春人は思わず黙り込む。考えたことがなかった。”ただなんとなく、プロになれたらいいな” と思っていたけど…それだけじゃ、ぼんやりしすぎてる。
「お前は今、”プロのデザイナー” になった自分の姿を100%クリアに想像できるか?」
春人は言葉に詰まった。
「……できてない。」
「だから変われねぇんだよ。お前は”何を目指してるのか” すらはっきりしてねぇから、セルフイメージを変えようにも変えられない。」
エスが指を3本立てる。
「いいか。”明確なセルフイメージ” を作るには、この3つの質問に答えろ。」
- お前は”どんな自分” になりたいんだ?
- その自分は、”どんな行動” をしている?
- その行動を”今すぐやる” なら、何をする?
春人は小さく息をのんだ。
「……なるほど。」
エスはニヤリと笑う。
「お前の理想像は、”どんな世界で、どんな生活をしてるのか” まで考えろ。例えば、”プロのデザイナー” ってのをもっと具体的にしろ。」
「1年後、お前はどこで仕事してる?」
「PCの前? それともデザイン事務所?」
「デザインするのはファッション? 広告? Web?」
「クライアントは企業? 個人?」
「いくら稼いでる?」
「何をデザインして、誰に影響を与えてる?」
春人の頭の中で、”なんとなく憧れていたプロ” のイメージが少しずつ形を持ち始める。
「……俺は……」
「考えろ。これをはっきりさせねぇと、セルフイメージを書き換えることはできねぇ。」
春人はしばらく考え込んだ。
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「…俺は、自由なデザイナーになりたい。」
「クライアントに指示されるだけじゃなくて、自分の作品で評価されたい。」
「企業のロゴデザインとか、ブランドのビジュアルを作るような仕事がしたい。」
「年収は…最低でも800万は欲しい。」
「自分の作ったデザインが、”誰もが見たことのある” ものになったら最高だ。」
エスがニヤリと笑う。
「いいじゃねぇか。かっこいいと思うぜ。プロのデザイナー” ってのが、ようやく形になってきたな。」
春人は小さく息をのんだ。
「確かに……”プロ” って言葉に甘えてたかもしれない。」
「具体的に考えたら、自分の”なりたい姿” がはっきりしてきた。」
エスはポケットからライターを取り出し、カチリと火をつけた。
「お前のセルフイメージを書き換えるには、”今のイメージ” を燃やす必要がある。」
春人はゴクリと唾を飲み込んだ。
「じゃあ……次は?」
エスがライターを閉じる。
「”行動” だ。」
② 行動をセルフイメージ通りに変える

エスがポケットに手を突っ込みながら、ニヤリと笑った。
「お前、“本当にセルフイメージを変えたい” なら、頭で考えてるだけじゃダメだ。」
「行動を変えろ。」
春人は眉をひそめる。
「行動を変える……?」
「そうだ。”プロのデザイナー” になりたいなら、“プロのデザイナーとして行動する” んだよ。」
「…でも、それができないから悩んでるんじゃないか。」
エスは鼻で笑った。
「バカか。お前は”プロのデザイナーになったら行動が変わる” って思ってるだろ?」
「違う。“プロのデザイナーの行動をするから、プロのデザイナーになる” んだよ。」
春人はハッとした。
「え?」
「例えばな――」
エスはスマホを取り出し、画面を春人の前に突きつける。
「これ、誰のInstagramだと思う?」
春人は画面を覗き込んだ。
そこには、数々の洗練されたデザインが並んでいた。
フォロワーは50万人。
コメントには「このデザイン最高!」「この人の作品に影響を受けた!」と絶賛の声が並ぶ。
「……有名なデザイナー?」
「いや。」
エスはスマホをスワイプし、最初の投稿まで遡った。
「最初は、こんな感じだった。」
そこにあったのは、普通の大学生が描いたような、特別すごいとは言えないデザイン。
「でも、そいつは”プロのデザイナー” として振る舞うことを決めた。」
「毎日デザインを投稿し続けた。クライアントがいなくても、”プロとして” 作品を発表し続けた。」
「そのうち、本当に仕事が来るようになって、今じゃ世界中で認められてる。」
春人は息をのんだ。
「……つまり?」
「“セルフイメージが変われば、行動も変わる” 」
だが…
「“行動が変われば、セルフイメージも変わりやすい”」
エスは壁を軽く拳で叩く。
「いいか。お前が今”プロのデザイナー” になったつもりで、行動を変えるとどうなる?」
春人は少し考えた。
「……毎日、作品を作って発表する?」
「そうだ。」
「SNSに投稿する前に『いいねがつかなかったらどうしよう』とか考えず、”プロとしての仕事” だと思ってアップする?」
「そういうことだ。」
「デザインの勉強も、”勉強” じゃなくて、”仕事のスキルアップ” としてやる?」
「正解。」
エスがニヤリと笑った。
「お前が ‘プロのデザイナーとして行動’ し続けたら、周りのやつらも”お前はプロなんだ” って認識するようになる。」
「そして、お前自身も”俺はプロだ” って思えるようになる。」
「つまり――」
エスは壁に映る”俺は大したことない” の文字を指差した。
「行動が、セルフイメージをぶち壊す。」
春人は小さく息をのんだ。
「……じゃあ、俺は今すぐ”プロのデザイナーの行動” をすればいいのか?」
「そういうことだ。」
「でも、具体的には何をすれば?」
エスはフッと笑い、指を一本立てた。
「”セルフトーク” だ。」
③ セルフトークを書き換える3つの方法とは

エスが指を一本立てた。
「お前、”セルフトーク” って聞いたことあるか?」
春人は首をかしげる。
「……自己暗示みたいなやつ?」
「まぁ、そんなところだ。」
エスは壁に刻まれた “俺は大したことない” の文字を指差した。
「お前、この言葉、今まで何回自分に言ってきた?」
春人は、ギクリとする。
「……わからない。」
「じゃあ、”自分はダメだ” って思ったことは?」
「……何度もある。」
「だろ?」
エスは腕を組む。
「お前の頭の中で、”お前自身が何を言ってるか” ってのが、セルフイメージを決めるんだよ。」
「つまり、”俺は大したことない” って言い続けてりゃ、そりゃ大したことない人間になる。」
「逆に、”俺はプロのデザイナーだ” って言い続けてりゃ、本当にそうなる。」
春人は苦笑いを浮かべた。
「そんな単純な話?」
「お前、“言葉の力” をナメてるな?」

エスはポケットからライターを取り出し、タバコに火をつける。
「…人間の脳は、”何が現実で、何がただの言葉か” を区別できねぇ。」
春人は眉をひそめる。
「どういうこと?」
「例えば、お前が『レモンをかじった』って想像したら、唾液が出るだろ?」
「……確かに。」
「でも実際にレモンをかじってるわけじゃねぇ。」
エスは火を見つめながら続ける。
「脳は、”言葉” と “現実” を、完全に区別できねぇんだよ。」
「だから”俺はダメだ” って言い続ければ、脳は『あ、そうか』って納得する。」
「逆に『俺はすごい』って言い続ければ、脳は『そうなのか?』って錯覚する。」
春人は唾をのんだ。
「つまり……?」
「“自分に何を言うか” 、つまりセルフトークによって、セルフイメージが決まるってことだ。」
エスが指を3本立てる。
「いいか。セルフトークを書き換えるには、この3ステップだ。」
- 今のセルフトークを自覚する
- 否定形をポジティブな言葉に変える
- 毎日、”なりたい自分” の言葉を口にする
春人は腕を組む。
「①は、自分が普段どんな言葉を使ってるか意識するってこと?」
「その通り。」
「例えば、お前が普段『俺には無理だ』『失敗しそう』って思ってるなら、それをまず自覚しろ。」
「”無意識のうちに、自分を縛る言葉を使ってる” ってことに気づけ。」
「なるほど……。」
「次に、②。”否定形をポジティブな言葉に変える” ってのは?」
「例えば、『俺は自信がない』を『俺は成長中だ』に変える。」
「『俺は大したことない』を『俺は磨かれている』に変える。」
「ただし、ここで重要なのは――」
エスが春人をじっと見つめる。
「“脳が信じられる言葉” にしろってことだ。」
春人は首をかしげる。
「……どういうこと?」
「例えば『俺は億万長者だ!』って言っても、お前の脳が『いや、違うだろ』って全力で否定する。周りのやつも変なやつだなって思うだろ。だから、”今すぐ信じられる言葉” に変えろ。」
「『俺はデザインの才能がある』じゃなくて、『俺はデザインを学び続けている』。」
「『俺は成功する』じゃなくて、『俺は成功に向かって進んでいる』。」
春人はゆっくりと頷いた。
「確かに…それなら、違和感なく受け入れられそうだ。」
エスはニヤリと笑う。
「そういうことだ。」
「で、最後が③。”なりたい自分” の言葉を口にする。」
「”俺は成長中だ” とか、”俺はデザイナーとして歩んでいる” とか、毎日言い続けろ。」
「声に出せば、脳はそれを”現実” だと思い込む。」
春人は、壁に刻まれた “俺は大したことない” の文字を見た。
その隣に、新しい言葉を刻むように、心の中で呟いた。
“俺は、デザイナーとして歩んでいる”。
ゆっくりと、壁の表面が揺れた。
「おい、景気づけに音楽でも聴いてけよ?」
エピローグ-なりたいセルフイメージを維持し続けろ

春人は、ゆっくりと息を吸った。
「なりたい自分の行動を、今すぐやる……」
心臓の鼓動が速くなる。
今までの自分なら、迷って、投稿画面を閉じていた。
でも、もう”中途半端な自分” には戻らない。
「……やるぞ。」
春人は、SNSの投稿ボタンを押した。
ポチッ。
投稿完了。
“過去のセルフイメージが引き戻そうとする瞬間
「……うわぁ。」
指を離した瞬間、胸が苦しくなった。
「これ、大丈夫か……?」
脳裏に、不安がよぎる。
- “反応なかったらどうする?”
- “変なこと言われたら?”
- “やっぱり、俺には無理なんじゃ……”
ズズズズ……!!
セルフイメージの巨壁が、再び形を取り始める。
「くそっ……!」
「おいっ春人!!」

その時、エスの声が響いた。
「今何を考えてる!?」
春人はハッとする。
「エスさん!!!俺……”失敗するかも” って。」
「いいか、聞け!それは”過去のお前”の思考パターンだ。だが、お前は”なりたい自分の行動” を、もうやっただろ!確かにセルフイメージは、すぐ変わるもんじゃねぇ!けど、お前はもう”書き換える方法” を知ってるだろ!思い出せ!」
- 「”なりたい自分を明確にする”」
- 「”その行動を先にやる”」
- 「”セルフトークを書き換える”」
春人は拳を握りしめた。
「……そうだ。」
「なら、その思考も行動も言葉も”なりたい自分” に合わせろ!」
エスが静かに言った。
「『俺の作品には価値がある。』」
春人は、ゆっくりと呟いた。
「……俺の作品には、、、価値がある!」
壁が、少しずつ崩れ始める。
“なりたい自分” の行動を続ける
その日、春人はSNSに3回投稿した。
フォロワーが一気に増えたわけではない。
爆発的な「いいね」がついたわけでもない。
でも、確かに――
「俺は、なりたい自分の行動をしている。」
その実感が、春人の心を満たしていた。
そして――

「このデザイン、すごくいいですね!コラボしませんか?」
クライアントからのDMが届いた。
「……マジかよ!?」
「ガラガラガラ…」
……壁が崩れる音が聞こえた。
「ようやく分かったか。」
エスが腕を組んで立っていた。
「エスさん!」
「お前は最初、自分を”中途半端なやつ” だと思ってた。」
「でも今は、”挑戦するやつ” に変わった。」
春人は黙って頷く。
「はい、俺はなりたい自分の行動をしました。だから、もう”なりたい自分” になり始めてるってことですね。」
エスはニヤリと笑った。
「そういうことだ。」
「ただし――」
春人はエスの言葉に反応し、顔を上げる。
「ここからが、本当の勝負だぞ。」
次の試練「環境の壁」

ズズズズズ……!!
足元が震えるような感覚が走った。
春人は、無意識に顔を上げる。
――そこには、新たな巨大な壁がそびえ立っていた。
「な……なんですか、これ……!?」
「”環境の壁” だ。」
エスが淡々と言う。
「お前がどれだけセルフイメージを変えたとしても、”周りの環境” が変わらなければ、お前はすぐに引き戻される。」
「環境……?」
「例えば、お前が”俺は価値あるデザイナーだ” って思っても、低単価の仕事ばかり受けてたらどうなる?」
「……稼げなくて『やっぱり俺はこの程度の人間なんだ』って思い直すってこと……?」
「そうだ。だから”環境” を変える必要がある。」
春人は壁を睨んだ。
「つまり、この壁をぶっ壊せってことですね。」
エスは口元を緩ませた。
「ハッ、言うじゃねえか。なら、さっさとぶっ壊しにいこうぜ。つーかお前、急に敬語になんなよ。気持ちわりぃからやめろ。笑」
春人は拳を握りしめた。
「はい!…じゃなくて…あぁ、分かった!」
新たな壁を前に――
もう、迷いはなかった。

なぁ?せっかくだし、もっと音楽も楽しんでいったらどうだ?
break the walls!!(壁をぶっ壊せ!!)
お前が動けば世界も変わる。シェアで広げてくれよな!壁を一緒にぶち壊そうぜ。